【メインストーリー64話前日譚】いつまでも…

 私達は公国、そして連邦の……あまり言いたくないが奴隷事件を解決して共和国の家に戻った。スノゥさんがおかえりなさいといつもの様に行ってくれた。だがはいただいまという素っ気ない声しか出なかった。ダーくんもその場では怒りをあらわにしていたが今では昔を思い出してしまったのだろう…顔を青ざめ少し震えながら服の裾を掴んでいる。無理もない。以前何年も過酷な奴隷生活を送っていた。その記憶が頭に染み付いてしまったのだろう。トラウマは一度掘り起こされると歯止めなく出てくる。そんな二人を見て察してくれたのだろうか。スノゥさんはご夕食は私が用意します。なので御二方はごゆっくりお休みください。といってくれた。スノゥさんは本当に感謝している。こうして冒険者をして家を安心して出れるのはスノゥさんが家にいてくれるからだ。流石元公国メイドだなと思う。スノゥさんの言葉に甘え寝室に戻る。ダーくんはまだ青ざめた顔をしたままだ。私は
「ダーくん…」
と声をかけてみた。しかし返事はない。ダーくんは何やらずっとブツブツと呟いている。何を言ってるかよく聞こえないが大抵わかる。前の時もそうだったから。だから
「ダーくん!!」
無理やり顔を掴んで私の方に振り向かせた。
「…えっ…あっ…」
やっぱり…と思う。彼は泣いていた。
彼はいつもそうだ。あの時もそう…私が前世の時死ぬ前だ。今まで彼はずっとずっと誰かに縛れていた。研究者、奴隷商人、ストレスの発散のために身体を求める輩、そして彼を迫害し続けた人間達や同じ種族の獣人たち、そして”私”。だから私は彼に自由に生きて欲しかった。誰かのために尽くすだけが人生じゃない。と伝えたかった…いや伝えたつもりだった。でも彼にはこう伝わってしまったのだろう…彼はこう答えた
「あとは全部任せて。僕頑張るから」
…違うの…君には自由に生きて欲しいの…もう頑張らなくていいの…そう伝えたかったのに…ここで意識が途切れた。目の前に彼がいたのに伝えきれなかった。私は今前世の記憶を持っている。この後悔を繰り返さないために伝えなきゃいけない。伝えていかなきゃいけないんだ。
「ダーくん…あのさ…またいつもみたいに全部1人で解決しようとしないでよ…今はさ私と二人きりだよ?だから………前みたいに甘えていいんだよ?」
なるべく彼に優しく言った。彼へもっと我慢しなくていい…その気持ちを込めて。すると唖然としていた彼は徐々にくしゃくしゃの泣き顔になっていった。
「ナオミ……ナオ…ナオ…!うっあっ…うぅ…んぁ……!」
よしよしと彼の背中を優しく叩く。ほらやっぱり。君は甘えん坊なのにどこかで遠慮をしてしまう。人の機嫌を伺って自分の本当の気持ちを抑えてしまう。でもそれを誰かに吐き出すことが苦手なんだ。不器用で思いやりが強くって心の優しい彼。そんな彼の苦しみがこれで全部癒される訳では無いのはわかってる。でも少しでも…彼に安らぎを与えられるように少しづつでいいから甘えさせてあげたい。彼の気が済むまでそばにい続けた。
しばらくして…今、彼は私の膝に頭をのっけている。本当に甘えん坊さんだ。頭を撫でるといつもは恥ずかしがるが、今は身を捩り気持ちよさそうに目を細める。まるで小さい子どもが母親に甘えるようだ。頭を撫でていると
「ねぇ、ナオ…」
と彼が声をかけた。
「なーに?ダーくん」
「僕さ…今は弱いけどさ…いつかは君を守れるくらい強くなりたいんだ…だから…沢山旅をしよう…前の時よりももっと沢山いろんな所へ行こう。2人で美味しいものを食べて、遊んで、依頼こなして…それで…ふふ…君とならどこに行ったって楽しいから…」
「うん…」
「たくさん一緒にいようね」
無邪気な笑顔でそう言った。うん。もちろん…と返したが返事はなかった。ばっと彼の方を見るとすぅすぅと寝息をたてて寝ている。泣き疲れてしまったからだろうか。そんな所も可愛いな〜と思っているとガタックと音が隣から聞こえた。あー…と色々察した。きっとスノゥさんが夕飯ができて私たちを呼びに来てくれたのだろう。そこで今の場面を見たんだと思う。いや確かに大きな成人男性が子供のように年下の女性に膝枕されて猫みたいに身をよじって一緒にいようねなんて言ってる姿を一般的な人が見たら確かに驚く。うん…多分バレたらダーくんが顔を真っ赤にして部屋にこもりまた甘えなくなってしまうのだろな〜と思った。スノゥさんには悪いが今はもう少しだけこうさせてもらおう。なんて言ったって時間はまだあるはずだ。神の加護があるうちは滅多なことでは死なない。これからどんなことをしよう?まず君の誕生日を祝おう。そしてプレゼント交換し合って、おめでとうっていうんだ。そして旅の途中できれいな景色をみて、美味しいものを食べて、君の笑顔を沢山見れるのだろう。それで歳をとったら2人で家でゆっくり思い出を語ったりしよう。ダーくんの好きな錬金術の話もしよう。もう置いていったりはしない。これからはそばにいるよ。
この時の私はそうできると信じて止まなかった。


             連邦に新書を渡しに行く前の話

Naomi

ダーくんとナオミちゃんの物語をのんびり書いていきます。

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